ハイライト
各州は、最低給与額や通知義務など、様々な要件により、競業禁止義務を適用する余地を狭めています
その他の法律では、強制力のある制限の長さを2年から12ヶ月に制限し、過度な契約は無効とされています
各州は、過度な競業禁止義務契約に対する罰金や懲役などの罰則を強化しているため、雇用主はこれらの要件に確実に準拠しなければなりません。
競業禁止義務は、従業員の教育、ユニークなビジネス洞察力の共有、顧客やサプライヤーへの紹介などに時間とリソースを費やす雇用主を保護するために用いることができます。しかし、多くの場合、裁判所は、正当な事業目的なく従業員の競業を制限しようとする場合、例えばサンドイッチショップが、最低賃金の従業員を他のサンドイッチショップで働けないようにしようとするような場合、雇用主が制限条項を悪用していると判断します。
米国では、州によって異なるものの、競業禁止義務をめぐる状況は急速に変化しています。州法や訴訟では、競業禁止義務を認めるために最低限必要とされる基準に焦点が当てられており、これには特に以下のようなものが含まれます。
- 従業員の最低賃金基準値
- 通知義務
- 適用法および裁判地に関する要件
- 法律に違反した場合の罰則
例えば、2022年6月に改正されたコロラド州法では、発効日の2022年8月10日以降に締結された契約に基づく競業禁止義務の適用は大幅に制限されています。この法律では、競業禁止義務を適用できる場面が制限されています。8月10日以前の契約までは、企業秘密の保護と従業員が幹部または管理職(またはその専門スタッフ)であることは、競業禁止義務の正当な適用理由でした。8月10日以降の契約では、コロラド州は、競業禁止の目的を「高報酬従業員」(HCE)(現在、101,250ドル以上の収入を得る従業員)による企業秘密の開示の防止である場合、および、HCE給与基準額の60%以上の収入を得る従業員の顧客勧誘の禁止である場合に制限しました。HCEの給与基準額は、契約締結時だけでなく、適用時にも満たされていなければなりません。
給与基準額を用いているのは、コロラド州だけではありません。コロラド州は、一定の賃金以下の収入しか得られない者に対する制限は、正当な事業目的を欠くと判断した複数の州の仲間入りをしたのです。各州はこの最低要求賃金をそれぞれに規定しており、規定された賃金には大きなばらつきがあります。
例えば、メリーランド州で要求される時給15ドルという低額なものから、オレゴン州やワシントン州のように年間10万ドル以上というように、年俸を基準とする州もあります。また、ネバダ州やマサチューセッツ州のように、従業員が時給制の場合は競業禁止の制約を課すことを禁止しているところもあります。さらに、ロードアイランド州(250%)やメイン州(400%)のように、従業員に対して支給する給料が、連邦貧困レベルを一定割合以上上回ることを義務付けている州もあります。また、イリノイ州のように、最低賃金の引き上げが組み込まれている州もあります。
2022年7月、ワシントンD.C.は、競業禁止の全面禁止案を修正し、これらの州に加わりました。DCの新法では、2022年10月1日以降に締結される競業禁止契約は、年間15万ドル以上の報酬を得る、または得ることが合理的に予想される従業員に対してのみ強制力を持つことになります。
従業員への通知の必要性
コロラド州とワシントンD.C.の新法は、従業員が契約の結果を真に検討できるよう、競業禁止義務に関する通知を従業員に提供することにも重点を置いています。コロラド州の法律では、雇用主は従業員に対して、競争禁止とその条件について別途書面で通知しなければならず、従業員はこの通知に署名しなければなりません。同様に、ワシントンD.C.の法律では、雇用主は従業員に対して、雇用開始または契約締結の少なくとも14日前に、競業禁止義務を書面で提供し、法律の存在に関する通知も行うことが義務付けられています。
通知を義務付けているのは、コロラド州とワシントンD.C.だけではありません。イリノイ州では、雇用主は、入社日の少なくとも14日前に競業禁止義務を採用予定の従業員に提供すると共に、弁護士に相談するよう助言することを義務付けています。オレゴン州では、雇用主は従業員の入社日の少なくとも14日前に契約書を提供し、従業員の雇用終了後に競業禁止義務の通知を行わなければなりません。
カリフォルニア州、コロラド州、ワシントン州では、対象となる制限条項を含む全ての契約において、自州の法律と裁判地を使用することが義務付けられています。これらの各州の従業員には、その従業員が所在する州の法律と裁判地が適用されます。
さらに、これらの州の法律の多くは、独立した請負業者(インディペンデント・コントラクター)にも適用されます。
また、州によっては、雇用契約終了後の競業禁止期間を法令で制限しているところもあります。例えば、オレゴン州(原則として最長12ヶ月)や、アイダホ州、ワシントン州(いずれも18ヶ月以上の競業禁止は不当であるとの推定が働きます)などの州です。コロラド州の法律にはそのような制限はありませんが、一般的には2年が裁判所から認められている最長期間です。もっとも、制約を無効と判断され、罰則が課せられることを避けるためには、雇用主は競業禁止期間をより狭く設定するべきでしょう。
雇用主は、一部の州では、重大な影響が生じるため、自社の規定がこれらの新しい要件に準拠していることを確認するべきです。例えば、コロラド州法では、雇用条件として無効な競業禁止義務を従業員に課したり、無効な競業禁止契約を課そうとした雇用主には、損害を受けた労働者1人当たり5,000ドルの罰金(これに加えて、直接損害の賠償、差止命令による救済、合理的な費用および弁護士費用)が課されます。
同様に、メイン州は少なくとも5,000ドルの罰金を課しており、ワシントン州は5,000ドルの罰金(直接損害と比較していずれか大きい方の金額)、および弁護士費用と諸費用の負担を課しています。また、コロラド州では、強制力のない過度な競業禁止契約であると知りながらこれを脅迫の手段として使用し、従業員が生活費を得ることを妨げた者に対しては、第2級軽犯罪(120日間の懲役もしくは750ドル以下の罰金またはその併科)の刑事責任を科すことができるとしています。
各州は、競業禁止義務の評価と適用について、独自のアプローチを採っています。雇用主は、従業員が居住するすべての州の競業禁止義務を継続的に確認することが大切です。これらの法律は継続的に発展しており、必要に応じて、雇用主は、強制力を維持するために、契約を修正し、更新するべきでしょう。
©2022 Barnes & Thornburg LLP. All Rights Reserved. 書面による許可なく複製することを禁止します。
本ニュースレターは、法律の最新情報、動向をご案内するものであり、いかなる場合も法務サービス、法務アドバイスの意味を持つものではありません。本ニュースレターは、一般的な案内目的でのみ配布されるものですので、個々の問題については弁護士までご相談下さい。