ハイライト
米国連邦議会上院は、中国に対する競争力を強化するための米国イノベーション・競争法(USICA)を可決し、2,000億ドルを特定の投資のために提供する。
法案の要となるエンドレス・フロンティア法では、主要技術の研究開発を支援するために、全米科学財団に810億ドル、エネルギー省に170億ドルの資金提供を認めている。
さらに、下院科学委員会は、このような取り組みを進めるために、未来のための国立科学財団法および未来のためのエネルギー省科学法の法案を作成した。
6月8日、米国連邦議会上院は米国イノベーション・競争法(the U.S. Innovation and Competition Act、“USICA”)を可決しました。この法案には、貿易条項、経済的インセンティブ、米国の半導体および通信システムの開発・生産・研究に対する約2,000億ドルの資金提供が含まれています。
半導体は、米国経済および国家安全保障の重要な要素として注目されており、本法案は、中国に対する米国の経済および技術革新の優位性を確保することが目的とされています。この法案は今後、下院に送られるため先行きは不透明で、可決にあたりさらに修正が加えられる可能性もあります。
また、6月15日、下院科学委員会は、未来のための国立科学財団法(the National Science Foundation for the Future Act)および未来のためのエネルギー省科学法(the Department of Energy Science for the Future Act)を採択しました。下院科学委員会では、今後もこれらの法案や追加法案の審議を続け、8月の議会休会までに競争力強化法案を完成させる予定です。
USICAの規定
USICAは、500億ドル以上の連邦資金を産業計画、国内半導体生産の経済的インセンティブ、および一般的な新興技術研究に投資することを認めています。また、賃金要件、K-12や高等教育におけるSTEMプログラムへの資金提供、起業家精神研究などの条項も含まれています。
さらに、この法案は以下の内容を含んでいます。
- 15億ドルを通信業界に配分し、米国電気通信法が推進するオープンな5G技術のための資金援助とする。
- 中国の301条特別関税の緩和を企業が要求できる仕組み、GSP(特定の商品について発展途上国からの免税輸入を認める制度)の再承認、諸関税停止プログラム(米国で製造されていない無数の製品に対する関税の一時的な停止)の可決などの貿易条項を含む。
- 大規模合併の申請料の引き上げ。
- 発明者の多様性を測定するための人口統計データの収集計画。
USICAの見通しは、下院がどのように法案を再構成するかに大きく左右されます。現在、上院の法案は、エンドレス・フロンティア法(過去に可決された法案に予算配分する法案)などの過去に提案された法案をベースに、内容や予算を追加したものです。具体的には、USICAは以下の6つの部門に分かれています。
- 国防権限法(the National Defense Authorization Act)が昨年可決され、USICAは認可された2つのプログラムに予算を配分しています。USICAのDivision Aでは、CHIPS法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)に520億ドル、USA通信法(Utilizing Strategic Allied Telecommunications Act)で認可された公共無線サプライチェーン開発基金(Public Wireless Supply Chain Innovation Fund)に15億ドルが配分されています。この2つの予算は、企業が半導体の研究開発、施設、製造設備に投資するための資金援助と、オープンで相互運用可能なインターフェースの無線アクセスネットワークを使用する5Gおよび次世代技術の研究、開発、展開のための助成金を提供します。
- Division Bには、チャック・シューマー上院議員(民主党・NY)とトッド・ヤング上院議員(共和党・IN)が提出した上院議員立法であるエンドレス・フロンティア法(the Endless Frontier Act)が組み込まれており、2021年5月に商務・科学・運輸委員会で承認されました。この部門では、全米科学財団(NSF)に技術・イノベーション部門を新設し、米国商務省(USDOC)に地域技術ハブおよびサプライチェーン・レジリエンシープログラムを創設し、また科学・技術・工学・数学(STEM)分野に少数層からの参加を促進するために、1,100億ドル以上の資金投入を認めています。また、商務委員会は、Davis-Bacon条項を延長する修正案を承認しました。この修正案は、CHIPS法の下で資金提供を受ける企業が、労働者に適正な賃金を支払うことを義務付けるものです。
- Division Cには、外交委員会が2021年4月に承認した戦略的競争法(the Strategic Competition Act)が組み込まれています。条項は多面的であり、米国の技術インフラの安全性確保の支援、インド太平洋地域および世界中でのインターネットアクセスの拡大、国際機関や基準設定機関において米国が再びリーダーシップを取っていくこと、知的財産権の窃盗やその他の外国の不正行為への対処、人権侵害に対する中国への制裁の約束などに焦点を当てています。
- Division Dには、国土安全保障・政府問題委員会で承認された米国発明保護法(Safeguarding American Innovation Act)が組み込まれています。USICAのこの部分は、米国の研究、技術、知的財産の盗難を防止するための連邦研究安全評議会を設立します。この組織は、連邦政府の研究と助成金の決定プロセスに関する方針を定め、窃盗による機密情報の悪用を防止し、管理対象技術の不正な公開を防止すべく、外国人研究者のスポンサーに向けたガイドラインを作成します。
- Division Eは、中国からの脅威に焦点を当てています。銀行・住宅・都市問題委員会は、マネーロンダリング、詐欺、サイバー攻撃、人権侵害など、金融サービスに対する脅威に対処する中国の挑戦への対処法(Meeting the China Challenge Act)を承認しました。USICAは、市場操作の疑惑を調査するための省庁間合同タスクフォースを設立し、中国で事業を行う企業に行動規範の実施を求め、人権侵害に関与し得る製品の輸出規制を見直します。また、合同省庁間タスクフォースに制裁権限を付与し、毎年、米国大統領が特定の行為(中国のために、米国のサイバーセキュリティを弱体化させるようなサイバー攻撃への支援または実行、米国の企業秘密の窃取、そのような窃取行為に対する財政的またはその他の支援、或いはそのような窃盗からの利益享受)があったと認定した外国の団体または個人に対する制裁を義務付けています。
- Division Fは、国内の取り組みに焦点を当てた幅広い内容となっています。この部門では、K-12や高等教育機関におけるSTEMプログラムへの資金提供、2001年以来初めてとなる合併申請料の更新、USDOCが他の政府機関と協力して起業家精神を研究することなどが盛り込まれています。
付記:中華人民共和国議会は、6月10日、米国のUSICAに対抗する反外国制裁法を制定しました。両国がお互いに制約を課す法律を制定しており、これらの法をいかに実施していくかが、今後の米中貿易の焦点となっていくと考えられます。
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