速報1.13.26

外国私募発行体(FPI)の取締役および役員に対し、まもなく証券取引法第16条(a)の報告義務が適用へ


  • 米国議会は、「外国私募発行体(foreign private issuer:FPI)」に該当する米国上場会社の取締役および役員が、当該会社の有価証券の保有および売買について開示を免除されてきた、長年の例外規定を廃止しました。
  • 2025年12月18日、ドナルド・トランプ大統領は、外国人インサイダー責任強化法(Holding Foreign Insiders Accountable Act:HFIAA)に署名し、同法は2026会計年度国防権限法(National Defense Authorization Act)の第8103条として制定されました。
  • HFIAAにより、FPIの取締役および役員は、1934年証券取引法(証券取引法)第16条(a)の報告義務の適用対象となり、その開始日は2026年3月18日とされています。FPIおよびその経営陣は、この新たな報告環境に迅速に備える必要があります。

証券取引法第16条の概要

証券取引法第16条は、証券取引法第12条に基づき議決権付株式が登録されている発行体、すなわち事実上すべての米国上場会社の取締役、役員、および議決権付株式の10%以上の実質的所有者(以下総称して「インサイダー」)に適用されます。第16条は、主に以下の3つの要素から構成されています。

1. 第16条(a):保有および取引の開示義務

第16条(a)は、インサイダーに対し、米国証券取引委員会(SEC)に対して一定の公開開示書類を提出することを義務付けています。インサイダーは通常、インサイダーの地位を取得してから10暦日以内にフォーム3(Form 3)を提出しなければなりません。この届出では、インサイダーが「金銭的利益(pecuniary interest)」を有する、すなわち当該有価証券の取引から直接または間接に利益を得ることができる、発行体の株式(およびオプションやワラント等の一定のデリバティブ証券)の種類および数量を開示します。

その後、インサイダーは、発行体の株式(または該当するデリバティブ)に関する一定の取引(購入、売却、一定の株式報酬の取得など)を行った場合、取引日から2営業日以内にフォーム4(Form 4)を提出しなければなりません。フォーム4では、取得または処分した有価証券の種類および数量、取引価格など、当該取引の詳細を開示します。

また、一定の繰延開示が認められる取引については、年次のフォーム5(Form 5)の提出が必要となる場合もあります。

2. 第16条(b):いわゆる「短期売買(ショートスイング)利益」規制

第16条(b)は、インサイダーが、同一の6か月間において、発行体の株式または関連するデリバティブ証券について、反対売買(購入と売却、または売却と購入)を行った結果得た利益を、発行体に返還する責任を負うことを定めています。

3. 第16条(c):空売りの禁止

第16条(c)は、インサイダーによる発行体株式の空売りを原則として禁止しています。

外国私募発行体(FPI)

「外国私募発行体(foreign private issuer)」は、証券取引法施行規則3b-4において定義されています。FPIとは、外国法に基づいて設立された発行体であり、直近に終了した第2四半期の最終営業日時点で、以下の条件のすべてを満たさないものをいいます。

(a) 発行済議決権付証券の50%超が、直接または間接に米国居住者によって保有されており、かつ
(b) 以下のいずれかに該当する場合
(i) 発行体の執行役員または取締役の過半数が米国市民または米国居住者であること
(ii) 発行体の資産の50%超が米国内に所在していること
(iii) 発行体の事業運営が主として米国内で行われていること

SECによれば、2023年時点で、米国に株式を上場しているFPIは1,100社を超えています。

FPIインサイダーは歴史的に第16条の適用を免除対象であったこと

従来、証券取引法施行規則3a12-3(b)により、FPIのインサイダーは、上記で説明した第16条のすべての要件から免除されてきました。同規定は、FPI自体についても、SECの委任状規則を含む、米国連邦証券規制の一定の側面からの免除を認めています。

規則3a12-3(b)は、FPIが米国市場に上場することを促進し、米国投資家が当該証券に容易にアクセスできるようにするための政策的配慮として導入されました。SECがFPIに関する規制枠組みを採用した当時は、FPIおよびそのインサイダーが本国において十分な開示制度の対象となっており、かつFPI証券が本国市場で実質的に取引されていることが前提とされていました。

しかし、2025年6月にSECが公表したFPIに関するコンセプト・リリースで指摘されているとおり、これらの政策的前提は次第に疑問視されるようになってきました。議会がFPIの取締役および役員に対する第16条(a)の報告免除を撤廃したことは、こうしたFPIの規制上の取扱いに対する新たな関心と整合しています。特に、HFIAAの成立は、一部のFPIインサイダーが、米国投資家の不利益となる形で、自社証券の取引を不透明に行っているのではないかという懸念の高まりを反映しています。

外国人インサイダー責任強化法(HFIAA)

HFIAAは、第16条(a)を改正し、FPIの取締役および役員を明示的にその適用対象に含めるものです。これらの者は、HFIAAの施行から90日後、すなわち2026年3月18日より、第16条(a)の報告義務の対象となります。

SECによる規則制定および免除権限

HFIAAは、SECに対し、上記第16条(a)改正を実施するため、2026年3月18日までに最終規則を制定または既存規則を改正することを指示しています。また、HFIAAの「趣旨を実現するために必要な」追加的な規則制定を行う権限もSECに付与しています。

重要な点として、HFIAAは、SECが、関連する外国法域(FPIの設立準拠地など)が第16条(a)と「実質的に同等の要件」を課していると判断した場合、一定の者、有価証券または取引について、第16条(a)の報告義務を条件付きまたは無条件で免除する権限をSECに与えています。

HFIAAはFPIインサイダーに対する他の第16条免除を維持

HFIAAは、FPIインサイダーが歴史的に享受してきた第16条上のすべての免除を撤廃するものではありません。SECがこれに反する規則制定を行わない限り、第16条(a)の報告義務は、FPIの議決権株式の10%以上の実質的所有者(第16条インサイダーの第3類型)には適用されません。これには、ヘッジファンド運用者やその他の機関投資家が含まれます(ただし、後述する「代理取締役(director by deputization)」に該当する場合を除きます)。

また、同様にSECによる規則制定がない限り、すべてのFPIインサイダーは、第16条(b)の短期売買利益返還規定および第16条(c)の空売り禁止規定については引き続き免除されます(もっとも、FPIインサイダーは従来どおり、米国の一般的な詐欺禁止規定および違法なインサイダー取引の禁止規定の適用を受けます)。

FPIが今すぐ取るべき対応

2026年3月18日までの準備期間が短いことを踏まえ、FPIは以下の対応を開始すべきです。

  • 16条上の「役員」の特定
    証券取引法施行規則16a-1(f)は、「役員」を、社長、最高財務責任者、最高会計責任者(または当該職位がない場合はコントローラー)、主要な事業部門・部門・機能(営業、管理、財務等)を担当する副社長、その他政策決定機能を担う役員、またはこれらと同様の政策決定機能を果たす者と定義しています。FPIのフォーム20-Fにおいて役員として記載されている者のみが該当する場合もありますが、最高会計責任者など、フォーム20-Fでは役員として明示されていない者が該当し得る点も含め、確認が必要です。
  • EDGARアクセスの取得および提出権限の調整
    第16条(a)の報告義務者は、すべてSECのEDGAR(Electronic Data Gathering, Analysis, and Retrieval)システムへのアクセスを維持する必要があります。現在EDGARアカウントを有していないFPIの取締役または役員は、フォームIDをSECに提出してアカウントを取得しなければなりません。SECは、提出期限に十分余裕をもってフォームIDを提出することを推奨しており、現在、処理には平均して8~10営業日を要しています。FPIが取締役・役員の報告書作成および提出を支援する場合には、それぞれのEDGARアカウントに関する提出権限の取得についても調整が必要となります。
  • フォーム3提出の準備
    現在在任中のすべてのFPI取締役および役員は、2026年3月18日までにフォーム3を提出する必要があります。それ以降に就任した者は、前述のとおり10暦日以内に提出しなければなりません。フォーム3の作成には、FPIの株式および関連デリバティブについて、直接・間接を問わず金銭的利益を有するすべての持分を整理・把握する必要があり、信託、パートナーシップ、有限責任会社等を通じた間接保有がある場合には、特に複雑となり得ます。
  • 社内報告体制および実務プロセスの整備
    第16条(a)の報告義務は、法的には各取締役・役員個人に課されますが、実務上は発行体が作成・提出を代行することが一般的です。その場合、社内での役割分担の明確化、代理署名を可能とする委任状の取得、外部弁護士、コンプライアンス・コンサルタント、提出代行業者の関与の要否を検討する必要があります。また、報告対象取引後2営業日以内にフォーム4を提出できるよう、事前売買承認手続や証券会社との連携体制を整備することが重要です。
  • 研修の実施
    FPIは、取締役および役員が第16条(a)の基本概念および実務運用を理解できるよう、研修を実施することが望まれます。
  • SECによる規則制定の動向を注視
    HFIAAに基づくSECの規則制定について継続的にフォローすべきです。前述のとおり、SECが立法文言を超えて、第16条(b)や第16条(c)の適用を拡張する可能性も否定できません。
  • SECによる免除権限行使の可能性に留意
    SECが、第16条(a)と実質的に同等の制度を有すると判断する法域に設立されたFPIの取締役・役員を免除する可能性にも注意が必要です。ただし、現時点ではその時期や対象法域を予測することは困難であり、すべてのFPIは、2026年3月18日から第16条(a)が適用される前提で準備を進めるべきです。

FPI株式投資家も留意が必要

HFIAAの制定は、FPIの機関投資家にも影響を及ぼす可能性があります。

  • SEC規則制定により10%実質的所有者が第16条(a)の対象となる可能性
    HFIAA自体は、FPIの議決権株式の10%以上を保有する実質的所有者に新たな義務を直接課すものではありませんが、SECが規則制定により同様の報告義務を課す可能性は否定できません。また、FPIインサイダーに対する第16条(b)および(c)の免除を撤廃する可能性も考えられます。
  • 「代理取締役(director by deputization)」への適用
    HFIAAは「代理取締役」にも適用されます。代理取締役とは、投資家が自らの利益を代表する形で取締役を発行体の取締役会に送り込み、その取締役が当該投資家の特定の利益に沿って行動していると評価される場合に、投資家自身が取締役として扱われる概念です。取締役会に代表を有するFPI投資家は、自らが代理取締役に該当する可能性を慎重に検討すべきであり、この判断は事実関係に大きく依存するため、懸念がある場合には米国証券法弁護士への相談が推奨されます。

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